2011年3月18日金曜日

タルコフスキー「サクリファイス」とバッハ「マタイ受難曲」

日の昼食は「カレーパン」「クリームブリュレ」です。

昨夜は無事お話しをして、それから懇親会でお料理を戴きました。アイルランドの伝統的なお料理です。ブラウン・ソーダブレッドと言うアイルランド独特の茶色くパサパサしたパン。ジャガイモと牛肉のスープ。アイルランド風のソーセージ。それからフィッシュ・アンド・チップスなどです。本当のところ、余り美味しいものではありません。それからギネスも出ましたが、私はお酒を飲まないので戴きませんでした。同じテーブルの方がお料理を取りに行っている間にこっそり写真を撮りました。

 
 以前にもご紹介したことがあると思いますが、本日はまたアンドレイ・タルコフスキー監督の遺作「サクリファイス」(1986年)のお話しをしたいと思います。今回の災害で何だかこの映画のことを思い出したのです。

この時タフコフスキーは肺癌を患っており自らの死を自覚しながら弱った身体に鞭打ってこの作品を完成致しました。タルコフスキー監督の深い祈りが籠められた作品だと思います。
 主人公のアレクサンデルは著名な舞台俳優でしたが、そのキャリアをすてスウェーデンのゴトランド島に家族と共に住んでいます。アレクサンドルの誕生日、テレビで核戦争が勃発したと言うニュースが流れ、やがて停電になり、外部との連絡も一切つかなくなります。アレクサンデルは無神論者ですが、家も家族も自分の持てる全てのものを失ったもいいから愛するものが救われるように祈ります。郵便夫で超自然現象の研究をしているオットーから、アレクサンドルの家で家政婦として働いているマリアが実は魔女で、彼女なら世界を救うことが出来る、彼女を訪れ、彼女を愛しなさいと言われます。そこで、彼は一人マリアのもとを訪れます。最初マリアは彼の願いを聞き入れようとはしませんが、彼が自分のこめかみにピストルをあて、懇願すると承諾します。一夜を過ごし目を覚ますと、何事もなかったかのように普段の穏やかな世界に戻っています。アレクサンドルは約束を守るため家を焼き払い、一人立ち去ります。
 アレクサンドルの家の壁にかかるダ・ヴィンチの「東方の三賢人の礼拝」の複製、それから最初と終わりに流れる、バッハ「マタイ受難曲」BWV244第47番アリア “Erbarme dich, mein Gott” (我が神よ、憐れみたまえ)が象徴的に使われています。
 自己を犠牲にして世界を救うと言う構図はキリストを思わせますが、無神論者であるアレクサンデルは決して神の子でもなければ英雄でもない、一人の弱い人間に過ぎません。また、世界を救うために「魔女」と寝ると言うのはむしろ悪魔との契約であり、カトリシズムから見れば完全に異端です。
 ここでタルコフスキーが描こうとしているのは、救世主キリストによる宗教的救済ではなく、か弱い一人の人間が自己を犠牲にしてでも愛する者を救おうとする強い思いなのだと思います。

 こんなことを言うと感傷的だと思われそうですが、もし私が犠牲になることでこのような事態が起こらない状態に戻すことが出来るなら、全ても失ってもそうしたいと思います。
 この惨事を無かったことには出来ないかも知れませんが、私たち一人一人が、被災した人たちのことを思い、その救済を心から強く願うならば、きっとこの惨事から復活出来るのではないかと信じます。

 今日も「マタイ受難曲」を聴いています。先日貼ったばかりですが、また 'Erbarme dich, mein Gott' を貼っておきます。


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