2011年11月18日金曜日

「出講」とカズオ・イシグロ「日の名残り」そしてベートヴェン「ヴァイオリンソナタ」

日は出講日でした。帰ってきて一休みしようと思っていたろころに大学院生が来て相談にのっていたらこんな時間になって仕舞いました。例によって疲れて眠たくなっています。

 先日、ちょっとお話しをしなければならないことがあってカズオ・イシグロ「日の名残りF('The Remains of the Day')」を読み返しました。



ハヤカワepi文庫から翻訳も出ています。第二次世界大戦を挟んで、戦前から戦後の英国が、ダーリントン卿の邸で執事を勤めるスティーブンスの語りで描かれます。この「語り」が曲者で、無知の故善意からナチスに協力するダーリントン卿の過ち、女中頭のミス・ケントンに抱く恋心を、認めようとしないスティーブンスの自己を欺く「語り」で物語は進められます。原書で読むとスティーブンスの気取っていて遠回しな表現が見事な筆致で描かれます。
しかし、やがて読者はそのスティーブンスの「語り」が自己欺瞞であることに気付かされます。やがて邸はアメリカ人の手に渡りますが、この小説では没落する英国の貴族階級と新しい時代の到来が、貴族に仕える昔気質のスティーブンスの信頼出来ない「語り」によって見事に浮かび上がります。
 この小説ははまた映画化もされています。


小説ならではの「語り」は充分に表現は出来ませんが、なかなかよく撮れた映画になっています。スティーブンス役のアンソニー・ホプキンズ、ミス・ケントン役のエマ・トンプソン、この二人のヴェテラン俳優が見事な演技を見せてくれます。監督はジェイムズ・アイヴォリーです。現在、Amazon で900円程度で手に入ります。鑑賞に値する作品ですので、是非ご覧になってみて下さい。

 本日の音楽はアルゲリッチ/クレーメルによるベートヴェン「ヴァイオリンソナタ5番・9番」です。


本日は第5番「春」を貼っておきます。自由自在に演奏を楽しんでいるように見えますね。





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