「めぐりあう時間たち」("The Hours")はマイケル・カニンガムの小説をスティーブン・ダルドリーが映画化し、ニコール・キッドマンが2003年アカデミー賞、最優秀主演女優賞を受賞した作品です。H氏は京都で友人と見に行きました。この映画はヴァージニア・ウルフの Mrs Dalloway を核にして、作者ヴァージニア・ウルフ(ニコール・キッドマン:1923年ロンドン)、読者ローラ・ブラウン(ジュリアン・ムーア:1951年ロサンゼルス)、登場人物クラリッサ・ヴォーン(メリル・ストリープ:2001年:ニューヨーク)のそれぞれ問題を抱える3人の女性の生き様を描いています。
ヴァージニア・ウルフは精神の病を抱え療養のため田舎に引き込んで Mrs Dalloway の草稿を執筆しています。(この作品はもともと The Hours というタイトルでウルフの日記に現れ、後にMrs Dalloway に変更されます。)
ローラ・ブラウンは優しい夫と息子を持つ家庭の主婦で、一見幸せな生活を送っているように見えますが、自殺を試み失敗し、夫と息子を残して家を出ます。この息子リチャードは後にクラリッサ・ヴォーンの元恋人として登場します。
クラリッサ・ヴォーンは嘗てリチャードと付き合っていましたが、リチャードはホモセクシュアルで別れますが、今も友人としてエイズにかかり、余命幾ばくもないリチャードの面倒を見ています。クラリッサはその名前からダロウェイ夫人と言う渾名が付けられています。(ちなみにリチャードと言う名前はクラリッサ・ダロウェイの夫の名前です。)また彼女はレズビアンでサリーと言う女性と同居しています。(Mrs Dalloway の中でもクラリッサは若い頃サリー・シートンと言う女性とレズビアン的な関係にありました。)リチャードは詩人で、賞を受賞し、この日クラリッサは受賞パーティーを開こうとしていますが、リチャードは自殺してしまいます。(場面はクラリッサが花屋にパーティー用の花を買いに行くところから始まるなど、Mrs Dalloway と様々な箇所で対応しています。)
Mrs Dalloway には、過去(記憶)と現在、心の内部に流れる時間(意識)と外部の時間(日常的な時間)とが描かれます。一方「めぐりあう時間たち」では、20世紀初頭、半ば、そして21世紀初頭という3つの時間の中で、それぞれ異なった問題を抱えながら、Mrs Dalloway と言う作品を通して共鳴し合う女性たちが描かれます。
長くなってしまったのでそろそろやめておきますが、いずれの作品も読み応え、見応えのある作品になっています。Mrs Dalloway は自由間接話法を用いた独自の詩的文体で書かれ、原書で読む方が面白いのですが、英語自体が可成り難しいので読むのに苦労するかも知れません。翻訳では丹治愛氏が訳している集英社文庫版の「ダロウェイ夫人」がいいと思います。是非お読みになってください。
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