H氏はかつてローカルな文芸賞の小説部門の審査員を何度かしたことがあります。その授賞式で賞を取った方たちに請われて月に1度読書会をするようになりました。もう結構長く続けています。明日はその読書会の日で、今回はH氏の好きな作家の一人である高橋源一郎の「いつかソウル・トレインに乗る日まで」を読むことになっています。
この小説の帯には「著者初の、そして最後の超純愛小説」と書かれています。主人公のケンジは50代で通信社に勤務しています。彼はかつて学生運動に加わり、その後、通信社に勤め、ソウルに派遣された際にも、韓国の学生運動に関わりを持ちます。彼はスンナミと言う女性と恋愛をし、やがて別れて日本に帰りますが、スンナミは、彼の友人でもあるキム・ヨンシムと結婚します。時が流れ、スンナミが亡くなり、やがてキム・ヨンシムも亡くなります。その後まもなくケンジは仕事で韓国に行き、スンナミの娘ファソンと出会います。この二人の間にこの世のものとも思われぬ、人と人とが直截に向かい合う、恋愛関係が生まれます。ケンジは仕事も忘れ、ファソンと「世界の果ての宿」に滞在するのですが・・・。
ここに描かれるのは、人生そのものを変えてしまうような恋愛で、思わず憧憬を覚えて仕舞いますが、そこは高橋源一郎のこと、一筋縄ではいきません。少なくとも、今流行の恋愛小説のパロディーになっているのは間違いないと思われます。例えば、村上春樹の恋愛小説。「世界の果て」は「世界の終わり」を思い出させますし、筆致がどうも村上春樹風です。また、「世界の中心」(片山恭一の「~で愛を叫ぶ」)を意識していることも間違いないでしょう。それから、所謂、韓流ドラマも。
どこまでが本気なのか?どこまでがパロディーで、「こんなのは所詮人間の幻想に過ぎない」と言っているのか?判断に苦しむところです。むしろ、作家自身判断出来ていないのかも知れません。
と言うわけで、そこは全て読者の判断に委ねられていると言ってもいいでしょう。皆さんはどう読まれますか?
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